院長のコラム

福井院長が解説するコラム
       
  かわさき記念病院 院長の福井俊哉です.
2016年7月から2017年7月まで「認知と認知症のコラム」を掲載してきました.
さて,2017年8月からの予定ですが,「認知症と神経疾患の話題」とタイトルを変えて様々な話題を随時解説していきたいと思います.
今までは「教科書的」でしたのでこれからは若干「応用問題的」にしていこうかと考えています.毎月どのような内容が登場するかについては毎回のお楽しみとしてください.
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認知症と神経疾患の話題

⇒ 2017年12月:
        パーキンソン病(PD)とレビー小体型認知症(DLB)はどこが違うのでしょうか?

世間でDLB(レビー小体型認知症)が知られてきたことは好ましいことですが,どうも「DLB」と「認知症を伴ったパーキンソン病(PDD)」との混同が激しいようです.
どちらも「レビー小体病」に属しておりその差は少ないのですが,発症してからしばらくの間の臨床経過に根本的な違いがあります. レビー病変(レビー小体・レビー神経突起)が脳幹にとどまっているものはレビー小体病の脳幹型(brainstem-type)と呼ばれ,これがPD(パーキンソン病)に該当します.
一方,レビー小体病のびまん型(diffuse type)ではレビー病変が脳皮質と脳幹に広く分布しており,このタイプがDLBに相当します. 認知症を伴ったPD(PDD)ではレビー病変が当初脳幹にとどまっていますが,経過とともに大脳皮質と辺縁系に広がっていきます.
一方,レビー小体病にはアルツハイマー病の病理(ベータアミロイド)が合併していることが多いのですが,ベータアミロイドはPDよりもPDD/DLBに多く出現し,さらにDLBではPDDよりもベータアミロイドの出現量がさらに多いと報告されています.
これらの所見は,PD・PDD・DLBが一連のスペクトラムを成すことを示しています.また認知レベルやその内容(記憶障害が強いなど),脳画像所見(海馬萎縮が強いなど)にはアルツハイマー病病理が関与していると言えましょう.

⇒ 2017年11月:レビー小体型認知症についてもう少し詳しく

2017年5月のコラムにてレビー小体型認知症(DLB)については簡単に触れました.重複する部分があろうかと思いますが,ここではDLBを「レビー小体病」の立場から解説したいと思います.
1817年にJames Parkinsonが「振戦麻痺」について著し,後にJean-Martin Charcotが「パーキンソン病(PD)」と命名したことは10月のコラムで述べたとおりです.
その約100年後の1912年,ユダヤ系ドイツ人Friedrich Heinrich Lewy(1885~1950)がPD患者の黒質細胞内に特異的なタンパク沈着を発見しましたが,Lewy 自身はPDにおける黒質病変をあまり重視しなかったようです.PDの黒質におけるこのタンパク沈着の重要性に目を向けたのは,当時パリ大学に在籍していたロシア人のKonstantin Nikolaevich Tretiakoff(1892~1958)でした.彼は1919年の医学博士論文(Tretiakoff K. Paris University, Paris, 1919)の中で,黒質色素細胞内の封入体を記載し,これが1912年にLewyが記載した封入体と同じであるとして,この封入体を”corps de Lewy”(フランス語で “レビー小体” の意味)と命名しました.
しかし.この時点ではまだレビー小体病の概念はありませんでした.その概念の発端となった論文は小阪憲司先生らによる65歳の女性の症例報告でした.この女性では,56歳時に頸部の不随意運動と進行性もの忘れが出現し,記憶障害と不穏状態を主訴に65歳で入院しました.入院時には筋強剛,腱反射亢進,高度認知症,無為が認められました.当症例は腸重積で突然死した後に剖検に付され,大脳皮質の老人斑,神経原線維変化(アルツハイマー病変)に加えて,脳幹には典型的なレビー小体(後の脳幹型レビー小体)が,さらに大脳皮質深層にはレビー小体より淡く染色されるレビー様小体(後の皮質型レビー小体)がびまん性に認められました.この症例がDLBの原点と考えられます.さらに,レビー小体とは,実は我々誰もが体内に持っているアルファ-シヌクレインというタンパク質が変性して凝集した物質であることが判明したのは1990年代後半ですので,レビー小体型認知症は比較的歴史が浅い疾患であるということができましょう.
このようにパーキンソン病とレビー小体型認知症は兄弟のような疾患であり,「レビー小体病」という大きな傘の下にパーキンソン病とレビー小体型認知症が入っているとお考え下さい.

⇒ 2017年10月:パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)とは?

まず歴史から始めましょう.パーキンソン病の名前は,その疾患を最初に記載したイギリスのJames Parkinson(1755-1817)に由来します.彼はその著書 「An Essay on the Shaking Palsy」 の中では「パーキンソン病」とは呼ばず,「振戦麻痺(shaking palsy)」と記載しました.
これは「振るえて力が入りにくくなる」という意味でパーキンソン病の特徴をよく言い表していると思います.
その後,フランスの神経学者 Jean Martin Charcot(シャルコー) が1888年にパーキンソン病と命名し直し本日に至ります.
Charcotは振戦よりもむしろ筋強剛や動作緩慢の側面を強調しました. Parkinsonは的確な観察力により,「An Essay on the Shaking Palsy」の冒頭で次のように記載しています.” Involuntary tremulous motion with lessened muscular power”(不随意な振戦と筋力低下が), in parts not in action and even when supported(安静状態/支えられている状態の身体部位に出現し),a propensity to bend the trunk forwards(体幹が前屈位を取りやすく),pass from a walking to a running pace(歩いているうちに走り出してしまい),senses and intellects being uninjured(一方,感覚と知能は障害されない).この中で後世に訂正が必要であったものは「知能は障害されない」という部分でした.「An Essay on the Shaking Palsy」は6例の症例報告ですが,驚くべきは6例中何と2例は路上で偶然出あった症例であり,もう1例は単に遠くから見かけた症例なのです.
このようにパーキンソン病は「見ればわかる」疾患なのです.

⇒ 2017年09月:「レビー小体病」とは何ですか?

それでは,「レビー小体病」とは何でしょうか?レビー小体病とは,8月にお話ししたレビー小体と,アルファ-シヌクレインが神経突起内に沈着したもの(レビー神経突起)が体内に蓄積する一連の疾患の総称です.
そのグループ内には,「レビー小体型認知症,パーキンソン病,多系統萎縮症」が含まれます.レビー小体病の特徴はそれが脳だけではなく全身臓器を侵す病であることです.以下,レビー小体とレビー神経突起をまとめてLB病変呼びますが,LB病変は中枢神経系だけではなく,嗅神経,自律神経系,消化器,心筋,皮膚などの全身の組織に蓄積します.レビー小体病の3疾患の違いは,専らどの臓器にLB病変が蓄積するかによって決まるといっても過言ではありません.そのほか,LB病変が体内に蓄積しているがレビー小体病としては発症せず,レム睡眠行動異常症や起立性低血圧などの症状のみを呈する症例もあります.
このような症例が数年後にレビー小体病を発症しやすいことも分かっています.来月以降は,神経内科の領域では頻度が高いパーキンソン病を中心に話を展開したいと思います.

⇒ 2017年08月:「レビー小体」とは何ですか?

「レビー小体型認知症」については2017年5月のコラムでお話をしました.一方,「レビー小体病」という用語をお聞きになったことはないでしょうか?しばらく「レビー小体病」の話をします.まず,そもそも「レビー小体」とは何でしょうか?以下,若干難しい話になりますがご勘弁ください.
「レビー小体」とはアルファ-シヌクレイン(α-Synuclein)というタンパク質が凝集したものをいいます.脊椎動物はそもそもアルファ-シヌクレインを有しています.アルファ-シヌクレインは特に嗅球(嗅覚の神経),前頭葉,線条体(脳深部にあり運動機能を携わる),海馬(記憶中枢)などにおけるドパミン作動ニューロンのシナプス前の神経末端に存在しています.アルファ-シヌクレインはシナプス機能に関連しているのではないかと推測されますが,その働きはまだよくわかっていません.さて,アルファ-シヌクレイン凝集の誘因ですが,アルファ-シヌクレインと関連している神経細胞膜の機能的な不安定性,アルファ-シヌクレイン関連遺伝子の変異,酸化物質によるストレス,異常リン酸化,カルシウムなどの金属イオンの濃度変化などの多因子が複合的に関わっていると推測されています.アルファ-シヌクレインが「神経細胞内に沈着したものをレビー小体(Lewy body)」,「神経細胞突起に沈着したものをレビー神経突起(Lewy neurite)」と称し,両者ともにレビー小体病を特徴づける病理所見です.

過去のコラム
【認知と認知症のコラム】 2016.07~2017.07