院長のコラム

福井院長が解説するコラム
       
  かわさき記念病院 院長の福井俊哉です.
2016年7月から2017年7月まで「認知と認知症のコラム」を掲載してきました.
さて,2017年8月からの予定ですが,「認知症と神経疾患の話題」とタイトルを変えて様々な話題を随時解説していきたいと思います.
今までは「教科書的」でしたのでこれからは若干「応用問題的」にしていこうかと考えています.毎月どのような内容が登場するかについては毎回のお楽しみとしてください.
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認知症と神経疾患の話題

⇒ 2018年5月:レビー小体病を見つける検査法:特異的検査

1)ドパミントランスポーターSPECT:脳幹部にある黒質から,基底核の一部をなす線条体に向かうドパミン系に存在するドパミントランスポーターを画像化し,ドパミン系機能を評価する検査です.正常な線条体は寸胴な「たらこ」状に見えますが,異常を有する場合は,この「たらこ」が下のほうからやせ細り頭だけが残った「おたまじゃくし」のようになります(被殻から取り込みが低下して尾状核頭が点状に残存).PD/DLBでは障害されますが,アルツハイマー病,前頭側頭型認知症,血管性認知症では基本的には正常ですから鑑別診断に有用です.一方,この検査法を用いても,同じくレビー小体病であるPD/PDD/DLBや多系統萎縮症との区別をつけることはできません.また,黒質線条体のドパミン系が同様に障害される進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症とレビー小体病の鑑別にも役立ちません.さらに,発症時にはまだドパミントランスポーターSPECT上の異常は見られずその後の経過で異常が明らかになる場合,また逆に臨床症状が出現する前から異常が見られる場合があることに注意を要します.

2)MIBG心筋シンチ:レビー小体病では自律神経系が障害されることを背景に,交感神経節後線維である心臓交感神経の障害を判定する検査法です.注射した薬剤(MIBG)が心臓交感神経を含有している心筋に取り込まれその濃淡を撮像します.取り込みのないバックグラウンド(縦隔)を1にした場合の心筋の取り込みの比(心臓縦隔比)をもってその指標とします(正常は2.2以上).心臓縦隔比はレビー小体病で低下しますが,自律神経に障害をきたさないアルツハイマー病,前頭側頭型認知症,血管性認知症では低下せず,またドパミントランスポーターSPECTでは異常を呈する進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症でもMIBG心筋シンチは正常に保たれるためPD/DLBの鑑別に有用です.一方,糖尿病性自律神経障害や心筋自体に障害の場合には異常所見を呈すること,また,ドパミントランスポーターSPECTと同様に偽陰性があることに注意が必要です.

⇒ 2018年4月:レビー小体病を見つける検査法:一般検査

以前のコラムで,「パーキンソン病は「見ればわかる」疾患なのです」と書きましたが,レビー小体病と,パーキンソニズム(2018年2月コラム参照)を呈するほかの疾患(血管性・薬剤性パーキンソン症候群など)を区別することに苦労することがあります.
そのようなときに有用な検査法を紹介します.
1)頭CT/MRIは脳の形を診る検査ですので「形態画像検査」と呼ばれます.これらは「補助的診断検査」と言われるだけあり,臨床症状を解釈するための補助手段として診断に寄与します.頭CT/MRIを見ただけではレビー小体病かどうかは診断できません.脳の形態画像のみで診断が下るものは,脳血管障害,脳外傷,脳腫瘍,正常圧水頭症などの脳外科領域の疾患が主体となります.レビー小体病の場合は他の変性性脳疾患のような画像的特異性(例:アルツハイマー病における海馬萎縮など)を欠くことが特徴です.一方,前述したアルツハイマー病病理が合併している場合は海馬・皮質萎縮が目立ってきます.
2)脳血流量検査(SPECT)は脳の機能を診る検査ですので「機能画像検査」と呼ばれます.一般的にはDLBにおける後頭葉取り込み低下が有名であり,「後頭葉取り込み低下のない症例はDLBにあらず」という誤解まで生じています.確かに,DLBの「アルツハイマー病に対する」血流低下部位は頭頂後頭葉であるとされていますが,すべてのDLB症例の中で後頭葉取り込み低下を示す割合は7割弱に過ぎません.正常コントロールに対するDLB/PDDの血流低下部位は前頭葉,頭頂葉,頭頂後頭葉,視床であることが分かっており,決して後頭葉のみに血流低下が生じるのではないことは肝の銘じておく必要があります.なお,パーキンソン病とレビー小体型認知症の間にはSPECT上の差異はないとされています.

⇒ 2018年03月:
        パーキンソン病(PD)とレビー小体型認知症(DLB)の共通症状―非運動症状

先月に引き続きPDとDLBの共通症状のうち非運動症状について解説します.
非運動症状はレビー小体が多系統の神経系に分布することを背景に出現します.実はこれらの症状の原因(出どころ)がPD/DLBであるとは気づかれず,症状別に各種診療科への無用な受診を繰り返し,不適切な多量投薬を受けてしまい(polypharmacyといいます),その副作用で病態をさらに複雑なものにしてしまうことが由々しき問題です.

a.自律神経障害:便秘や食欲のむら(消化器の蠕動低下),血圧の乱高下(安定しない),起立性・食後性低血圧による失神,各種排尿障害(頻尿・排尿困難・尿失禁).発汗障害(下半身発汗減少・上半身多汗)とその結果としてのうつ熱を生じる一方,暑い時期でも「寒さ」を訴えることが多く,この症状には「体感幻覚(実際には存在しない感覚を感じてしまう幻覚)」も加わっているように思われます

b.精神・感情・行動障害:抑うつ・不安(病初期にうつ病と誤診されやすい),各種不定愁訴(不安神経症に間違えられる),理不尽なこだわり現象(例:食パンが厚すぎる・薄すぎると毎日こだわる),他人の感情の理解障害(特に怒り・困惑表情を理解しないため人間関係が悪化しやすい),幻覚(幻視が多い),妄想(訂正困難な判断の誤り),衝動的行動(突然立ち上がり転倒する,病的ギャンブリング,性的逸脱行為)など.

c.睡眠障害:熟眠感がないことによる不眠の訴え,昼間の過眠,REM睡眠行動異常症(深夜~明け方の大声,四肢のばたつかせ,ベッドからの転落,歩き回る).REM睡眠行動異常症はPD/DLB発症の数年前から単独で認められることもあります.

d.認知障害:主に注意・実行機能障害・視空間処理能力障害が目立ち,記憶障害はアルツハイマー病よりも軽度である傾向があります.PD/DLBの記憶障害では,記憶の貯蔵(保持)自体の障害よりも注意・実行機能障害に基づく記銘(覚えること)や想起(思い出すこと)の障害の関与が大きいと考えられています.また,意識と認知レベルが大きく変動することが特徴です.

e.その他:身体症状発症から数年~10数年さかのぼる嗅覚低下,嗅覚障害に伴う味覚障害を呈することは少なくありませんが,この点に特化した病歴聴取をしないと発見できません.

⇒ 2018年02月:
        パーキンソン病(PD)とレビー小体型認知症(DLB)の共通症状―運動症状

先月のコラムで述べたように,PD(PDD)とDLBには相違点があります,
しかし,両者ともにレビー小体病でありますので多くの共通点を有していることも事実です.各症状を運動症状と非運動症状に分類するとわかりやすいと思います.

今月は運動症状について解説します. 運動症状はPDでは必須でありDLBでも合併することが多い症状です.この運動症状をパーキンソニズム(parkinsonism)と称します.主に安静時振戦(手足を動かさないで置いている時に出現する振るえ),筋強剛(手足を他動的に動かした時に感じる歯車様の抵抗),無動/寡動(体の動きが少ないこと),動作緩慢(動きが遅いこと),姿勢反射障害(バランスが取れないこと)が代表的なものです.PDでは症状の左右差があり振戦が比較的多いのに対して,DLBでは左右差が目立たず振戦が少ない傾向があります.また,運動症状の治療薬であるL-DOPA(レボドパ)はDLBよりもPDで奏功することが多いようです.

参考:パーキンソニズムの定義 1.
厚生労働省 難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp
(1) 左右差のある典型的な安静時振戦(4-6 Hz),または
(2) 歯車様筋強剛,動作緩慢,姿勢反射障害 の2つ以上
2.Movement Disorder Society(Mov Disord. 2015;30:1591-1601
(1) 動作(運動)緩慢,および
(2) 筋強剛,静止時振戦の1つ以上

⇒ 2018年01月:認知症と神経疾患の話題

認知症を伴ったパーキンソン病(PDD)とレビー小体型認知症はどう区別する?
パーキンソン病(PD)症例が認知低下を合併する割合は,横断的に30%,縦断的に80%とされています.PDとして経過している方が認知症を併発してくると,突然病名がパーキンソン病からレビー小体型認知症に変更されるという「誤り」をよく見聞きします.
発症当初はPDでその後認知症を併発した症例は「認知症を伴うパーキンソン病(PDD: Parkinson’s Disease Dementia)」と称し,DLBとは一応区別して考えます.
まず,PDとDLBの診断基準を確認しましょう.
PDは身体症状(振戦,筋強剛,動作緩慢,姿勢反射異常など)が必須であるのに対して,DLBでは初期から進行性の認知機能低下(認知症)があることが必須です.DLBとPDDの病態がきわめて類似していることから,両者の鑑別法は操作的(人為的)に決められています.発症から少なくとも1年間は身体症状のみ呈しその後認知症を発症するものをPDD,一方,認知・精神・感情症状が身体症状に相前後してまたは身体症状発症後1年以内に発症するものをDLBと定義します.これを「1年ルール」と言います.
最近,この「1年ルール」に頼らずにPD/PDD/DLBを再定義しようとする提案が最近なされましたが(International Parkinson and Movement Disorders Society),それに対する反論も呈されており,この件についての論議はまだまだ続きそうです.

⇒ 2017年12月:
        パーキンソン病(PD)とレビー小体型認知症(DLB)はどこが違うのでしょうか?

世間でDLB(レビー小体型認知症)が知られてきたことは好ましいことですが,どうも「DLB」と「認知症を伴ったパーキンソン病(PDD)」との混同が激しいようです.
どちらも「レビー小体病」に属しておりその差は少ないのですが,発症してからしばらくの間の臨床経過に根本的な違いがあります. レビー病変(レビー小体・レビー神経突起)が脳幹にとどまっているものはレビー小体病の脳幹型(brainstem-type)と呼ばれ,これがPD(パーキンソン病)に該当します.
一方,レビー小体病のびまん型(diffuse type)ではレビー病変が脳皮質と脳幹に広く分布しており,このタイプがDLBに相当します. 認知症を伴ったPD(PDD)ではレビー病変が当初脳幹にとどまっていますが,経過とともに大脳皮質と辺縁系に広がっていきます.
一方,レビー小体病にはアルツハイマー病の病理(ベータアミロイド)が合併していることが多いのですが,ベータアミロイドはPDよりもPDD/DLBに多く出現し,さらにDLBではPDDよりもベータアミロイドの出現量がさらに多いと報告されています.
これらの所見は,PD・PDD・DLBが一連のスペクトラムを成すことを示しています.また認知レベルやその内容(記憶障害が強いなど),脳画像所見(海馬萎縮が強いなど)にはアルツハイマー病病理が関与していると言えましょう.

⇒ 2017年11月:レビー小体型認知症についてもう少し詳しく

2017年5月のコラムにてレビー小体型認知症(DLB)については簡単に触れました.重複する部分があろうかと思いますが,ここではDLBを「レビー小体病」の立場から解説したいと思います.
1817年にJames Parkinsonが「振戦麻痺」について著し,後にJean-Martin Charcotが「パーキンソン病(PD)」と命名したことは10月のコラムで述べたとおりです.
その約100年後の1912年,ユダヤ系ドイツ人Friedrich Heinrich Lewy(1885~1950)がPD患者の黒質細胞内に特異的なタンパク沈着を発見しましたが,Lewy 自身はPDにおける黒質病変をあまり重視しなかったようです.PDの黒質におけるこのタンパク沈着の重要性に目を向けたのは,当時パリ大学に在籍していたロシア人のKonstantin Nikolaevich Tretiakoff(1892~1958)でした.彼は1919年の医学博士論文(Tretiakoff K. Paris University, Paris, 1919)の中で,黒質色素細胞内の封入体を記載し,これが1912年にLewyが記載した封入体と同じであるとして,この封入体を”corps de Lewy”(フランス語で “レビー小体” の意味)と命名しました.
しかし.この時点ではまだレビー小体病の概念はありませんでした.その概念の発端となった論文は小阪憲司先生らによる65歳の女性の症例報告でした.この女性では,56歳時に頸部の不随意運動と進行性もの忘れが出現し,記憶障害と不穏状態を主訴に65歳で入院しました.入院時には筋強剛,腱反射亢進,高度認知症,無為が認められました.当症例は腸重積で突然死した後に剖検に付され,大脳皮質の老人斑,神経原線維変化(アルツハイマー病変)に加えて,脳幹には典型的なレビー小体(後の脳幹型レビー小体)が,さらに大脳皮質深層にはレビー小体より淡く染色されるレビー様小体(後の皮質型レビー小体)がびまん性に認められました.この症例がDLBの原点と考えられます.さらに,レビー小体とは,実は我々誰もが体内に持っているアルファ-シヌクレインというタンパク質が変性して凝集した物質であることが判明したのは1990年代後半ですので,レビー小体型認知症は比較的歴史が浅い疾患であるということができましょう.
このようにパーキンソン病とレビー小体型認知症は兄弟のような疾患であり,「レビー小体病」という大きな傘の下にパーキンソン病とレビー小体型認知症が入っているとお考え下さい.

⇒ 2017年10月:パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)とは?

まず歴史から始めましょう.パーキンソン病の名前は,その疾患を最初に記載したイギリスのJames Parkinson(1755-1817)に由来します.彼はその著書 「An Essay on the Shaking Palsy」 の中では「パーキンソン病」とは呼ばず,「振戦麻痺(shaking palsy)」と記載しました.
これは「振るえて力が入りにくくなる」という意味でパーキンソン病の特徴をよく言い表していると思います.
その後,フランスの神経学者 Jean Martin Charcot(シャルコー) が1888年にパーキンソン病と命名し直し本日に至ります.
Charcotは振戦よりもむしろ筋強剛や動作緩慢の側面を強調しました. Parkinsonは的確な観察力により,「An Essay on the Shaking Palsy」の冒頭で次のように記載しています.” Involuntary tremulous motion with lessened muscular power”(不随意な振戦と筋力低下が), in parts not in action and even when supported(安静状態/支えられている状態の身体部位に出現し),a propensity to bend the trunk forwards(体幹が前屈位を取りやすく),pass from a walking to a running pace(歩いているうちに走り出してしまい),senses and intellects being uninjured(一方,感覚と知能は障害されない).この中で後世に訂正が必要であったものは「知能は障害されない」という部分でした.「An Essay on the Shaking Palsy」は6例の症例報告ですが,驚くべきは6例中何と2例は路上で偶然出あった症例であり,もう1例は単に遠くから見かけた症例なのです.
このようにパーキンソン病は「見ればわかる」疾患なのです.

⇒ 2017年09月:「レビー小体病」とは何ですか?

それでは,「レビー小体病」とは何でしょうか?レビー小体病とは,8月にお話ししたレビー小体と,アルファ-シヌクレインが神経突起内に沈着したもの(レビー神経突起)が体内に蓄積する一連の疾患の総称です.
そのグループ内には,「レビー小体型認知症,パーキンソン病,多系統萎縮症」が含まれます.レビー小体病の特徴はそれが脳だけではなく全身臓器を侵す病であることです.以下,レビー小体とレビー神経突起をまとめてLB病変呼びますが,LB病変は中枢神経系だけではなく,嗅神経,自律神経系,消化器,心筋,皮膚などの全身の組織に蓄積します.レビー小体病の3疾患の違いは,専らどの臓器にLB病変が蓄積するかによって決まるといっても過言ではありません.そのほか,LB病変が体内に蓄積しているがレビー小体病としては発症せず,レム睡眠行動異常症や起立性低血圧などの症状のみを呈する症例もあります.
このような症例が数年後にレビー小体病を発症しやすいことも分かっています.来月以降は,神経内科の領域では頻度が高いパーキンソン病を中心に話を展開したいと思います.

⇒ 2017年08月:「レビー小体」とは何ですか?

「レビー小体型認知症」については2017年5月のコラムでお話をしました.一方,「レビー小体病」という用語をお聞きになったことはないでしょうか?しばらく「レビー小体病」の話をします.まず,そもそも「レビー小体」とは何でしょうか?以下,若干難しい話になりますがご勘弁ください.
「レビー小体」とはアルファ-シヌクレイン(α-Synuclein)というタンパク質が凝集したものをいいます.脊椎動物はそもそもアルファ-シヌクレインを有しています.アルファ-シヌクレインは特に嗅球(嗅覚の神経),前頭葉,線条体(脳深部にあり運動機能を携わる),海馬(記憶中枢)などにおけるドパミン作動ニューロンのシナプス前の神経末端に存在しています.アルファ-シヌクレインはシナプス機能に関連しているのではないかと推測されますが,その働きはまだよくわかっていません.さて,アルファ-シヌクレイン凝集の誘因ですが,アルファ-シヌクレインと関連している神経細胞膜の機能的な不安定性,アルファ-シヌクレイン関連遺伝子の変異,酸化物質によるストレス,異常リン酸化,カルシウムなどの金属イオンの濃度変化などの多因子が複合的に関わっていると推測されています.アルファ-シヌクレインが「神経細胞内に沈着したものをレビー小体(Lewy body)」,「神経細胞突起に沈着したものをレビー神経突起(Lewy neurite)」と称し,両者ともにレビー小体病を特徴づける病理所見です.

過去のコラム
【認知と認知症のコラム】 2016.07~2017.07